「お前のモノは俺のモノ、俺のモノは俺のモノ」そんなジャイアニズムを発揮して、自己中で、暴れん坊で、いじめっこな姿を多く描かれるジャイアン。そんな彼の将来の夢は「紅白歌合戦に出場する」こと。音痴でどうしようもないけれど、公園でリサイタルを開いてしまうぐらいジャイアンは歌が、音楽が、大好きで大好きでたまらない。
なぜ、ジャイアンは歌が好きなんだろう…そんな、意味のない質問のこたえを、今日の新聞の中に見つけた。
1月8日付け朝日新聞のオピニオン欄『音楽にできること』の中より引用。
シカゴ交響楽団音楽監督、現在ミラノ・スカラ座音楽監督を努めるダニエル・バレンボイム氏は、今の世界に足りないものの本質を音楽の中に見出し、それを信じ、メッセージを伝える。
「音楽のチカラはふたつある。嫌なことを忘れさせる力、そして世界を理解させる力だ」
「(日中の対立について)音楽が何かを達成できるのは、演奏する人と聞く人がひとつの場所に居合わせている時のみです。日中がそれぞれ何を主張しようと、音楽家と聴衆を出会わせる場所を、まずつくらねばなりません。同じ場所に人々が集い、そこに音楽が生まれるなら、すこしなりとも良き道へ進むことができると私は信じます。」
「(パレスチナのガザ地区でのイスラエルとの対立に関して)敵対する地域に生まれた私たちの、いったい何が違うのか。違いを知ること。ノーということ。そこからすべてが始まるのだと私たちは信じた。相手がなぜ自分と同じ権利を主張するのかに関心を持ち、話を聞く態度を持つことがすべての一歩であり、その一歩を築く力になれるのが音楽なのだ、と」
「音楽こそが、あらゆる異分子を調和へと導く希望の礎です。音楽家は政治に何の貢献もできないが、好奇心の欠如という病に向き合うことはできる。好奇心を持つということは、他者の言葉を聞く耳を持つということ。相手の話を聞く姿勢を失っているのが今日のあらゆる政治的な対立の要因です。」
「真にグローバルな世界とは、あらゆる人が他者の文化に関心を持っている世界のこと。人間の感情で最も大切なものは好奇心であり、好奇心こそが立場の異なる人との出会いのきっかけになるのです。」
「私は、音楽を聴きたい人々が、理不尽な圧力で聴けなくなる状況を認めたくないのです。(中略)『敵』とみなしている者同士を、まずは『人間』として向き合わせる。そのための素朴な試みに、音楽の可能性を賭けたいのです」
このインタビューの後に、音楽評論家である山田真一さんは「エル・システマ」を引用して以下のように語る。
「南米でエル・システマが向き合った課題は、貧困や犯罪でした。では日本で、それにあたる課題は何か。いじめだ、と私は思います。
オーケストラ活動の中で、まさに子どもたちの人間関係に分け入っていけないでしょうか。なにかしたくて、うずうずしているエネルギーを音楽に持っていってあげられないでしょうか。いじめのボスが、もしかしたら音楽リーダーになれるかもしれないと思うんです。」
「音楽は人間を変え、社会を変える可能性を持っている。そんな力があるということを、特に公的な立場の方に理解してほしいですね」
山田さんの語る、うずうずしたエネルギーを持て余したいじめのボスという言葉を聞いて、僕にはオレンジ色の服を着たイガ栗坊主の姿が頭に浮かんだ。
いじめっ子の鏡であるジャイアン。漫画版やアニメ版では優しさの押し売りやみんなを怖がらせる悪者キャラであることが多い彼であるけれど、映画版の中では、真っ先に仲間のために命を投げ出す友達思いの面を強く発揮する。
最初に書いたジャイアニズムな言葉の印象が強いけれど、ドラえもんが好きな人は彼の泣きながら発するこんな言葉も記憶に残っているのではないだろうか。
「心の友よ!」この言葉と涙の中に、僕はジャイアンの孤独と優しさを感じて共感する。
ジャイアンが歌を歌う理由は、実は歌を歌うことで自分自身の有り余るエネルギーを発散したいのかもしれないし、寂しさを和らげたいのかもしれないし、実は自分が歌うことで社会が、世界が、人間が変わることを信じているのかもしれない。そんなことを思った。
もしもドラえもんキャラクター人気投票があったら、迷わず、剛田武に一票。
僕は音楽はなにもできない。楽器だって引けないし、歌だって下手だし、アマとプロの演奏の違いなんかもよくわからないと思う。でも、音楽が好きだし、できたらいいなぁって憧れているし、やっている人を素敵だと思っている。みんながみんなそんな意識を持って音楽をやっているとは思わないけれど、バレンボイム氏の語るような敵対するもの同士が耳を傾けさせるきっかけを与えたり、エル・システマの成功例のように悲しいエネルギーを喜びのエネルギーに変換する可能性を秘めていたりする音楽は、僕はとても崇高なものであると思う。
音楽に限らない。恋愛も、ビジネスも、趣味も、仕事も、みんなそれに没頭している人はみんな素晴らしいと僕は思う。なぜなら、みんなただ単純に信じてそれをやっているだけではなくて、その中に、色々な不安を抱えているけどそれらをみんな飲み込んで頑張ってるから素敵なんだ。
Youtubeやニコニコ動画、vimeoなんかで世間一般ではそんなに知られていないけれど、なんだか楽しそうに音楽をやっている人を見つけたり、すごく綺麗な音楽を奏でている人をみつけたりするとなんだか嬉しくなる。
きっとジャイアンがこのインターネット時代に生まれていたら、皆を無理やり公園に連れて行ったりするのではなくて、自分の歌う動画をウェブ上で共有したりしていたのかな。音痴なことはしかたがないけど、それだったら僕は彼の歌をちょっと聞いてみたい。そう思っている。
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