1/12/2016

『ブリッジ・オブ・スパイ』

映画を見ました。
『ブリッジ・オブ・スパイ』


舞台は、アメリカとソ連が冷戦状態にあった1950年から1960年代。
アメリカ人弁護士、ジェームズ・ドノヴァン(トム・ハンクス)は保険分野の裁判を主に扱う実直な男。愛する妻と、子供達に囲まれ、一人の善良なアメリカ人として平凡な人生を歩んできた。

そんな彼のもとに、ソ連のスパイとしてアメリカ国内で囚われたルドルフ・アベル(マーク・ライランス)の弁護依頼が来る。核兵器を明日にでも撃ちかねない敵国のスパイであるアベルに対して、社会の趨勢は電気椅子による死刑を当然とする。ポーズとしての弁護を求められただけであるドノヴァンは、しかし、アベルを敵ではなく一人の依頼人として、さらには一人の友人として受け入れ法廷で闘う。

数年後…今度は米国のスパイがソ連国内で捕らえられる。
アベルと米国人パイロット、さらに不運にも捕らえられた米国人学生との1対2の取引交渉に再度臨むドノヴァン。スパイ同士の架け橋(原題:"Bridge of Spies")となるべく、敵地東ベルリンに赴く。「ちょっと、釣りに行ってくるよ」家族にはただそう告げて。

2つの大国の運命と、スパイたちの命、時代に巻き込まれた一般市民の命が、彼の交渉にかかっている。交渉は上手くいくのか。核戦争は回避されるのか。ドノヴァンは愛する家族のもとに帰れるのか。そして小さな友情が芽生えたアベルはどうなるのか。
単なるスパイ映画ではない。少しのスリリングを含んだ、奥深いヒューマンドラマ。



僕は1989年に生まれた。
映画に登場する、冷戦の象徴とされるベルリンの壁が崩壊した年である。だから、「冷戦」というものが何かを実体験としては知らない。アメリカとソ連がぶつけあっていたイデオロギーのこと、東ベルリンと西ベルリンの人々を隔てた壁の意味を、核に怯える生活を、僕は知らずとも生きていける時代に生まれた。(そのぶん、昔はなかった新たな世界の問題に直面している)

映画ではそんな暗黒の時代の様子を映す。当時の雰囲気を捉えた映像表現は素晴らしい。それを見るだけでも、僕達の世代はこの映画を見る価値が有ると思う。
しかし、主題はただその悲惨さを映すことにはない。
イデオロギーを越えて貫かれるドノヴァンの「信念」。いがみ合う相手とでも、どんな極限状態においても、美しいと思える行動がある。感銘できる人間性がある。
騙しあい、疑いあい、憎しみあう。「スパイ」に象徴される冷戦時代の不安定な存在の上にかけられたドノヴァンという「ブリッジ」の偉大さを証明すること、これこそがこの映画の主題であり、それが証明されるから人生は素晴らしいのだと思える。

トレイラーではかなり暗ーい印象を持ち、さらに映画自体も冷戦時代が舞台であって明るいシーンは少ない。
それでも、見終わった後には心地よい清々しさが残る。
荒野に咲いた一輪の花の生命力に感動するような充足感が心に宿る。
"homecoming"(帰郷)と名付けられた映画音楽が、強く心に残った。

おすすめの映画です。
是非、見てみてください。