12/23/2012

「日本はいい国だよね!」という妄想の崩壊?

衆議院選挙の投票から一週間が経った。
結果だけを見ると、自民党の圧勝。参議院での反対を押し切って法案を可決できる2/3以上の議席を自公併せて獲得した。勝利宣言で安倍次期総理が
「今回の選挙は自民党の勝利ではなく、民主党の敗北だ」
と笑顔を作らずに語ったように、様々な国内メディアが
「民主党に対する懲罰的選挙」
「乱立する政党に迷って安定を求めた選挙」
「自民党の自滅による勝利」
と述べるように、今回の選挙では、多くの有権者はネガティブな意志で物事を決めたのではないだろう。


批判や消去法によって成り立つ選挙のことを、米国大統領選ではネガティブ・キャンペーンと言う。今回の選挙も国民の乱立し集合離散する政党と、記憶に残る成果を出せなかった民主党に対する消去法、ある種のネガティブ・キャンペーンだったのではないだろうか。

消去法のおそろしいところは、自分は選択も心に何かを決めたのでないにしても、行く道が自ずと狭まり、結果として残るのは決断となってしまうこと。
つまり、今回の選挙が「民主にNO」を言いたかったというプロセスを踏んでいたとしても、アウトプットとなるのは「自民にYES」という決断。日本で日本のメディアを通じてだけ今回の選挙結果を聞いていれば、「あーみんな民主党がダメだったから自民にしたんだなぁ」とその思考プロセスも理解できるけれど、海外メディアが力を入れて取り上げるのは後者の、「日本人は自民にYESを言った!」というアウトプットだけであることが多い。


英語の勉強のために読んでいるWall Street JournalのAsia Editionでは、「アジア・世界における日本」という少し大局的に見た日本の様子を記事から得ているのだけれど、日本にいる僕の意識とは異なった意見が述べられる。具体的には、日本がどんどん右傾化している様子を多くの読者に告げる。以下に、今週一週間の中で気になった言葉を引用。

"Japanese voters on Sunday took a high-stakes gamble on a new prime minister who is vowing a sharp shift in economic foreign policy."
「日本の有権者は、経済と外交で急進な変化を予定する新首相を一か八かのカケとして選んだ。」
"Voters opt for a sharp shift in Government Leadership."
「投票者は、政府のリーダーシップでよりはっきりした変化を選んだ。」
"Close behind the once-ruling party was the recently formed Japan Restoration Party, co-headed by nationalist Shintaro Ishihara, the former Tokyo governor who has made a point of finding ways to provoke China."
「自民党による一党支配のすぐ後ろに着いたのは、中国との争いの火種を着けたナショナリストである石原慎太郎が率いる日本維新の党であった。」
"In Japan's notoriously unstable politics, he will become the sixth prime minister since he himself left the job in September 2007."
日本の悪名高い不安定な政治において、安倍晋三は彼自身がその職を退いた2007年から数えて6人目の首相となる。」

安倍次期首相の右寄りな思想(=国粋主義=日本の利益を最優先し、排外的にそれを守り広げようとする考え方)のみを、過去の発言から抜粋して集められた記事も見受けられる。
On the territorial dispute with China;
"There is no room for diplomatic negotiations over this issue. What is required in the waters around the Senkaku is not negotiations but - if I may say at the ris of being misunderstood - physical force."
-Essay in Bungei Shunju magazine, December 2012
「中国との領土問題について:この問題に関して外交的な話し合いの余地はない。尖閣諸島の領域において求められているのは、誤解を恐れずに言えば、物理的な力である。」
On nuclear weapons:
"The possessions of nuclear bombs is constitutional, so long as they are small."
-speech at Waseda University, May 2002
「核兵器について:核兵器の所有は合憲である、それらが小さいのであれば。」
On Japan's apologies to Asian neighbors for World War Ⅱ:
"If the LDP returns to power again, we will have to rebuild our East Asian diplomacy. Being excessively considerate to naighboring nations... has not brought us real friendship."
-interview with Sankei Shimbun, Aug.28 2012
「もしも自民党が政権を取り戻したら、我々は東アジアにおける外交を構築しなおさなければならない。近隣諸国に対して不当に優しくいることは、私達に本物の友好関係をもたらしてはくれない。

もちろん、上に述べた日本の右傾化を語る以外の金融政策の話も多いし、反対に次期安倍首相はそこまで国粋主義には走らないという記事もある。

"Japan's new leader won't be a dangerous nationalist."
「日本の新しいリーダーは危険なナショナリストにはならないだろう。」
"Mr. Abe is ofte smeared as a nationalist, yet he improved relations with China last time in office."
「安倍次期首相は度々ナショナリストであると批判を受けているが、しかし、前政権時には中国との関係改善に努めた。」
(以上全てWSJより引用)

それでも、多くの記事が語るのは上に引用したような内容であり、そして結果だけを見るのであれば、そんな首相を小選挙区制度による事実上の直接首相指名制度によって日本人は2/3以上の議席を預けるほどの「YES」を言ったということである。
「民主党・第三極に対するNO」であるとか、投票率60%のうちの半数の票であったから事実上は全国民の3割も自民を選んでいないという理屈は、国内では当然であっても、海外ではそんな細かいことまでは語られ伝わらない。伝わるのはわかりやすい「日本人の大多数が右傾化を語る党首を選んだ」ということである。


これを政治の話だと片付けていいのだろうか。海外旅行に行ったり、外人の友達を持つ人には、「日本はいい国だよね!」とろくに日本のことを知らないのに日本に対して好印象を持ってくれる海外の人々の反応に出会ったことがあると思う。
そういった反応が、もしかしたら今後、変わる可能性がある。それは今後の日本の政治や経済、アジア・世界の中での日本というフィールドでどのような役割や姿勢でいるかによる。
同時に、このような海外からどう見られているかということを意識して情報収集していないと、日本は、日本人は、ますます孤立してしまうと思う。政治家だけでなく、海外との接点が日本で暮らしていてもどんどん増えているこの時代においては、一般市民である僕達ひとりひとりが。


選挙は終わってしまったけれど政治に注目しなければならないのはこれから。
安倍次期首相の今後の動向に、しっかりと意識を傾けていきたい。

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