6/11/2012

映画"A Beautiful Mind"から広がった思想あれこれ

友人に薦められて映画を見ました。
"A Beautiful Mind"

この映画は実在する人物、ゲーム理論を創りだしたJohn Nashの数奇な人生を描いた映画。
こういった天才・偉人の生い立ちを描いた映画は、えてして、その人物がどれほど特殊で変人で墜落した人生を送ったけれども最後は名声を勝ち得たか、というとても分かりやすいストーリーになる。(最近のものでは、例えば、Facebook創業者のMark Zackerbergを描いた"Social Network"とかもそんな感じ。)
この映画もそのお決まりのストーリーラインを追う。

しかしこの映画がとても評価され、アカデミー賞で様々な賞を勝ち得たのは、その主題が"数学者の人生"と言うよりも、彼の妻・Aleciaとの"夫婦の愛"であり、数学と愛という相反するものが美しくまとめられているからだと思う。
英語・字幕なしで見たので細かいニュアンスはつかめなかった部分もあるけれど、心に響く台詞やシーンが多かった。

この映画で心に強く残ったシーンがある。
精神分裂症を患ったJohnは、絶えず現れる幻覚に悩まされる。その極み、Johnは愛する妻をも信じることができなくなる。現実と幻覚が入り乱れ、これ以上彼女を傷つけたくないという思いから。
その告白を受けた後に、Aleciaのかけた言葉である。


"You wanna know what's real?"
"This, this, this, this is real."
"Maybe the part that knows the waking from the dream, maybe it is not in here."
"Maybe it's in here." 
"I need to believe that something extraordinary is possible." 
夢から覚めることを知っているのは、頭ではなく、胸、心であるのだ、と。
映画のタイトルにも繋がるこのシーンは、映画のラストのシーンと重なり僕の胸に深く刻み込まれる。ノーベル賞を受賞したJohnのスピーチである。


"I've always believed in numbers. In the equations and logics that lead to reason. Bt after a lifetime of such pursuits I ask, what truly is logic? Who decides reason? My quest has taken me through the physical, the metaphysical, the delusional and back. And, I have made the most important discovery of my career...the most important discovery of my life. It is only in the mysterious equations of love that any logical reasons can be found. I am only here tonight because of you.(Alecia) You are the reason I am. You are all my reasons."

謎に満ちた「愛の方程式」のなかにこそ、本当の解があるのだ、と。

映画を観終わって、思い出したフレーズがある。ひとつは、有名なサン=テグジュペリ”星の王子さま”のなかに出てくる。
「じゃ秘密を言うよ。簡単なことなんだ―ものは心で見る。肝心なことは目では見えない。」
「きみがバラのために費やした時間の分だけ、バラは君にとって大事なんだ。」
もうひとつは、川上未映子”乳と卵”のなかで、心のもやもやを解消するため緑子が辞書をつかって色々な言葉を調べるシーン。
〈もしかして、言葉って、辞書でこうやって調べてったら辞書んなかをえんえんにぐるぐるするんちゃうの〉
〈じゃ、言葉のなかには、言葉でせつめいできひんもんは、ないの〉 

このランダムな思想を一つに結びつけているキーワードが、「言葉・数字と気持ち」だ。
この世にある全ての事象を、僕達人間は、言語化したり方程式で書き下して理解しようとする。人間の行動心理を方程式化して「ゲーム理論」を構築し、愛という言葉を広辞苑では「ある物事を好み、大切に思う気持ち」と定義する。

では、この哲学者が説いた言葉と天才数学者が導き出した数字でこの世の全てのことが言い表せるのかというと、絶対に違う、と僕は信じている。
頭で考えることには限界があり、心で感じることには限りがない。
無限に広がる美しき心(=a beautiful mind)に制限をかけているのは、哀しいかな、知恵を持った人間の思想なのだ。そんなことを、改めてこの映画を見て感じた。

最後に、もうひとつ、映画の中からquote.
"God must be a painter. Why else would we have so many colors?"
神様は、絵を描く者に違いない、と。

言葉と数字では表現しきれないもの。それをどうにか伝えたくて、アーティストと呼ばれる人たちは絵を描き、音楽を奏で、物を作る。

定量化できない感覚的な感性を、忘れないでいたい。


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