それをダーウィンは”進化”と読んだけれど、”退化”となることもある気がする。
長い旅からの帰り、成田空港から都心へ変える電車の中、同じ車両にのる人々をぼーっと見ていた。同じくどこかからの旅の帰り道出会ったのだろう、たくさんの人々がスーツケースやカバンを背負い、座席に座る。ビジネスマン風の人もいれば、キャピキャピとした女の子の集団もいる。しかし、する行動は同じ。うつむきがちにスマホを開いてそれを見つめている。液晶画面の向こう側でつながっている誰かに、「おかえり」の報告をしているのだろうか。
今日は電車にたくさん乗った。普段、自転車で行動することが多いので、駅で電車を待つ人を観察することはあまりない。何気なくホームに立つ人々を見てみると、みな直立不動の姿で電車を待っている。しかし、直立といっても真っ直ぐではない部分がある。首と右手。右手を少し持ち上げ携帯を支え、首を下にカクッと曲げて、携帯電話をのぞき込む。ほとんど全ての人が。電車の中でもやはり、首を下に向けて携帯を見つめている。
もしも携帯電話がなかったら…想像力を駆使して、周りの人の手から携帯電話だけを消してみる。みんな、なんだか、肩を落として足元を見つめているような格好である。少し悲しくなった。
スマホの普及、SNSの普及、それによって生じる様々な良いこと悪いことが研究され語られている。けれど、今日僕が気になったのは、首を少しだけ曲げて下を向く、うつむいた状態。そういった姿勢をする人が本当に多いなーということ。携帯を操るときにわざわざ液晶画面を目線の高さに持ってくる人はほとんどおらず、ましてや目線より高くする人は皆無であり、かならずうつむいた姿勢をとる。操る手が顔より下にあるのだから当然のことだろう。
携帯を操作するときに、どれくらいうつむいているのか。適当に360度のうちの10度、首の可動域が真上から真下までであるのならわずか1/18にあたるこの角度だけうつむいていると仮定してみる。人間がこの地球に生まれてから今までで、この僅か10度だけかもしれないけれど、首を曲げて視線を下に落としている時間を比較してみると、ここ数年でその長さは恐ろしいほど長くなってしまったと思う。太古の昔は誰かとコミュニケーションを取るときに相手の顔を見つめなければならなかった。自然に正眼に構えることになる。それが今は手のひらの上で行われるために、目線を落とさなければならない。
目線を下げる、見下す、足元を見る、頭を下げる、うつむく、目を伏せる…
多彩な日本語表現の中で、10度だけ首の角度を下げた様子を表したこういったものは、どれもこれもネガティブな印象を与える。そんな格好をしている人が今の時代には、世界には、溢れている。
携帯を持っているんだから仕方がない、その通りだが、手元がみえないだれかの後ろ姿からは、その人が何かに悩んで下をむいているのかどうか、ただ携帯を見つめているのか検討もつかない。20年前であれば、ホームの縁に立ち線路をじーーーーっと見つめるおじさんがいれば、「飛び込もうとしてるんじゃないだろうか…」なんて想像が後ろ姿からも察知できたかもしれないけれど、今では無理だろう。後ろに立つ誰かも、10度下を見ているのだから気付きようもない。
こんなにみんなが下を向く環境が多いのだから、次に生まれてくる僕らの子供たちは、もしかしたら少しだけ首の角度が曲がった状態で生まれてくるかもしれない。そしてこの環境がずーっと続けば、普段からみんなが少しだけうつむいている、10度だけネガティブな世界が広がってしまうかもしれない。
適応した結果だからそれは”進化”と呼ばれるのだろうか。僕達の子孫は、将来、
「いやー昔の人達は、携帯を見るためにわざわざ首を曲げなきゃ行かなかったなんて不便だねー」
なんて会話を、手のひらをみつめながら誰かと語り合っているのだろうか。
それを僕は”進化”とは呼べない。”退化”である気がしてならない。
”チュニジアで流れる涙”という記事の中で語った通り、天を仰ぎ見てそこに存在する自然の美しさに気づいて、僕は本当に感動した。
そして今年の5月22日の金環日食の日にも、”鳥肌”で述べたように、僕はみんなが太陽を見上げているというその姿や、一体感に感動した。
ライブなんかでも、ドーム公演で座席からアーティストを見下ろすよりも、野外コンサートで目線を上げてステージを見るほうが、なんとなく熱い声援をかけやすい気がする。
気持ちが晴れて感動が生まれるのは、間違いなく、目線をあげたときのほうが多い。
10度だけネガティブな世界よりも、10度だけポジティブな世界を。
なんだか気分が落ち込んでいるときは、液晶画面の奥にいる誰かに助けを求めるのもよいけれど、単純に目線を上げてみてはどうだろう。根本的解決にはならないかもしれないけれど、少しだけ、10度だけ、気分が晴れる可能性がそこにはある。僕はそう思う。
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