会社での研修は毎日ほぼ定時に終わる。
通勤時間は1時間弱で、地元の駅に到着するのは7時少し前。大学院で研究をしていたときには毎日不規則な時間に帰っていた。だから、こんなに規則正しく夕刻に外を出歩く機会はあまりなく、帰路に地下鉄の階段を上りきったときに広がる空色が新鮮で、思わず目がとまる。
今の季節、6時半頃にはちょうど日が沈み、空がしっとりとした雰囲気に包まれる。
写真用語ではこの夕焼け直後の時間のことは『マジックアワー』として知られ、多くの風景写真家が好んでシャッターを切り続ける。
外はまだ明るい。しかし、沈んでしまった太陽からの光には指向性がなく、足元には影ができない。
気が付くとなんだか不思議な気分になる。街や人から影が消え、立体感を少し失う。
映画のワンシーンを見ているような錯覚に陥るのは、影なきゆえの平面視、金色から群青へのスタティックな流れ、そして夕凪による空気の固定なんかを無意識に身体が感じるからだろう。
写真がドラマチックに映る貴重な30分間。
東京の、日本の空も美しい。
ちなみに、日の出の前の、空が静かに青く染まる時間帯は『ブルーアワー』或いはブルーモーメントという名前が付いている。マジックアワーとは異なり、人がまだ活動していない事が多く、よりいっそう静寂感に包まれる。
朝と夕の景色は、どこか特別な場所に行かなくても見ることができる。
自宅の窓から、近所の公園で、少し早い出社や帰宅途中にも。
いつもの街が少し変わって見える瞬間に、少し意識を向けてみてほしい。
いつもの街が少し変わって見える瞬間に、少し意識を向けてみてほしい。
帰り路の信号待ちでは、マジックアワーの空を見上げる人が多い気がする。
スマホ時代、待ちゆく人々の後ろ姿はほとんどいつも俯いていて、せわしなく、なんだか鬱々とした気持ちになることが多い。静かに空を見上げる人の姿に心が救われる。
この時間が好きなもうひとつの理由だったりする。
上を向いて歩こう。